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     シャンティに電話をした翌日、ユイは彼女の両親が経営するカレー屋に向かった。
     彼女から連絡があって、警察関係に家族のいる同級生が話を聞いてくれるから、お店まで来てほしいとのことだった。シャンティのカレー屋には、これまでに何度も顔を出している。集団客が来るとすぐにいっぱいになってしまう、こじんまりとした店舗だが、このときは昼時を過ぎていたからか、お客さんは少なかった。
     店内には、店主であるシャンティのお父さんがいる調理場と、そこに接しているカウンター席、そしてカウンター席から通路を挟んだテーブル席がいくつかあり、シャンティは4人掛けのテーブル席に座っていた。ユイの入店に気づき、手を振ってくれたのでユイも振り返した。シャンティの対面には、こちらに背を向ける形で学生服の男の子と、警察風の青い制服を着た女性が見えた。少年と女性がユイのほうへ向き直り、立ち上がる。
    「はじめまして。恵比寿ユイさんですね。おれは常盤さんの同級生の、天遊琳タケルと言います」
     黒い学生服の少年が言って一礼したので、ユイも頭を下げた。年齢に似合わない眼光の鋭さが印象的な子だった。無愛想とは思わないけれど、表情が固い。シャンティから聞いていた話では、彼のお父さんとお兄さんが八幡学園都市署に勤めているという。確かにそういった厳格な家庭で育ったと言われれば納得できる。
     その隣に立つ女性を見ると、目が合った。彼女はタケルとは対照的に、にっこりと微笑む。
    「ローラ・トライベッカ。I2COから派遣された、タケルの仕事上のパートナーだよ。よろしくね」
    「仕事、ですか?」
    「ああ、厄介なテロ事件が起こってさ、ひと段落はしたんだけど犯人は捕まってなくて、その捜査」
    「おい」とタケルがローラを睨んだ。「部外者には他言無用だ」
     その口調に…











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     あれほど強大だった尿意はすっかり引っ込んでしまった。
     檻の向こうにはトイレの扉が見えているけれど、この状況で優先すべきは排泄なんかよりも、とにかく生命の安全だと動物的本能が悟っているようだ。
     旭レイジという男子が、この場で唯一アリスの恐怖心を紛らわせてくれる人間だった。けれどそのレイジも、すぐにそっぽを向いて眠りはじめてしまった。アリスは初めのうちこそわあわあと喚いていたが、レイジが全然反応を返してくれないので、やがて諦めた。再び膝を抱えて座りなおし、考える。
     この場からどうやったら逃げ出せるだろう?
     そもそも、どうしてこんな目に?
     やはり父がI2COの上層部いることが関係しているのだろうか。だとしたらなおさら、父に迷惑をかけないためにも自力で脱出しなければならない。
     とはいえアリスには、あらゆる才能が欠如している。お勉強や歌、ピアノなどはそれなりに心得ている。神醒術も人並みよりはずいぶんと上手くなったはずだ。でもそれらはすべて、人生のほとんどをつぎ込んだ努力のおかげであって、努力をしていない他の事柄に関してはダメダメだ。筋力トレーニングなんて社交用のダンスを覚えるために少しした程度なので、自身の両手首と両足首を縛っている縄をほどく力すらない。自分の身を自分で守るために学んだ頼みの綱は神醒術だけれど、犯人の男には力が及ばなかったし、今はゲートを奪われたせいでそもそも起動が封じられている。
     無能な自分にいらだち、アリスは下唇をぎゅっと噛んだ。
     思えば神醒術は、世話係や雇われコーチでなく父が直接アリスに教えてくれた、ほぼ唯一と言っていい科目だった。
     アリスが愛する家族は、今は父しかいない。そんな父から神醒術を教えられはじめたのは4歳の頃だった。I2COの七賢者の娘として、ふ…









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     パドマは誘拐事件に興味を持った。武装グループが関わっており、その雇い主が個人の神醒術士だと聞いたからだ。
     パドマも神醒術士であり、この街のそういった集団をいくらか手駒として抱えている。自分と似たような穴に棲む人種が、この事件に関わっている。そう考えると胸が躍った。会ってみようと決めるのに大した時間はかからなかった。新しい手駒になれば最高だし、使えなそうなら壊して目ぼしいものだけ奪えばいい。
     雇い主の情報源として最有力である肝心の武装グループは、残念ながら全員捕まったらしい。ただ、そいつらの親戚筋にあたる別グループとはコンタクトが取れた。そこそこ名前が売れている集団だったので見つけ出すのは簡単だった。話をしたところ、神醒術士の性別は男で、最近ドイツからやってきた余所者ということがわかった。どうりで、同じような人種なのに今まで会う機会がなかったわけだ。現在の居場所についても尋ねたが、そこまでは知らないとのことだった。身体に訊いたので嘘ではないだろう。
     代わりにというわけではないが、その男が金を渡すために使った取引場所は聞き出せた。まぁ最低限の情報は揃ったと言える。だいたいの活動区域さえわかれば、あとはカンでなんとかなる可能性がある。パドマは、物騒な人間が近くにいればなんとなく肌で感じとれる。
     教えられたのは八幡学園都市の中でも辺鄙な土地だった。後ろ暗い取引をするために、あえてそこを選んだのだろう。パドマが今いる拠点も人目を嫌って辺鄙な土地に設けたので、共感はできる。
     ただ不運にもパドマの拠点と、これから向かおうとしている目的地は、方角で言うと南と北で真逆だった。近場にある駅から地下鉄を利用することに決めた。
     夕暮れどきの電車には、さまざまな人間が乗り合わせる。スーツの会社員…







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     抗いようのない巡りあわせに振り回される人生を送ってきた。この国の言葉では、運ばれる命、と書くらしい。皮肉だなとノルベルトは自嘲的に笑う。
     先天的に心臓を病んでいた。それを理由に10歳で親から見捨てられた。父と母のどちらかがドイツ人で、もう一方がアメリカ人だと聞いたが詳しくは知らない。知りたいとも思わない。しばらくはひとりで生きる日々が続き、貧しかった。病を治す金はなかった。いくらか適性のあった神醒術によって自らの肉体をごまかせたのは、まだしもの救いだったろう。しかしさすがにもう長くないと医者に言われている。まぁ50過ぎまで生きられたのだから、不運の中では幸運なほうだとしておいていいだろう。平均よりほんの30年ほど早く死ぬだけだ。
     幸運といえば、もうひとつ。
     5年前、ノルベルトの黒ずんだ人生に色を添えてくれる大きな出会いがあった。見た目には20代の女性だった。
     きっかけは病院の待合室で、ノルベルトが落としたハンカチーフを彼女が拾ってくれたことだった。彼女はそこに描かれた鳥のキャラクターを見て、可愛いですねと微笑み、ノルベルトはありがとうと微笑み返した。笑顔は好意からでなく社交辞令のようなものだったが、そこからぽつぽつと会話が始まり、数十分後にはふたりで声を出して笑い合っていた。あんなにも自然に笑えたのは生まれて初めての経験だった。理由はわからない。ただ、人の心の壁を取り払うのが上手な、不思議な女性だと思った。素直に白状するなら、このとき既に彼女を恋愛的な感情をもって見つめていた。
     彼女もまた、ノルベルトを特別に思ってくれているようだった。年齢は大きく離れていたが、それはふたりにとって些細なことだった。すべてのレッテルを取っ払って愛しく思いあえる相手の存在は、何百年の寿命よ…





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     父が意識不明の重体に陥ったと聞いたタケルは、病院に向かい、父と顔を合わせた。父は目を覚ますことはなかったけれど、医者に教えられたところによると命に別状はないらしい。タケルは医者に礼を言い、父の分厚い手を握って「お疲れ」と小さく囁きかけてから病室を出た。
     次にタケルは、八学署に勤める兄と会った。父の見舞いに行った報告ついでに、事件に関する可能な限りの情報共有をしてもらうためだったが、兄は、そんなややこしい話よりもまずはてっとり早く、と提案をした。彼自身の権限で少々強引に、八学署の取調室をタケルに見学させてくれるという。
     本来は規律違反のはずなのでタケルは強い罪悪感を覚えたが、違反を違反でなくすだけの力を兄は持っていたので、説得される形となった。尊敬する父を傷つけた犯人を自分の目で見たかったのも偽れない事実だ。マジックミラー越しに、犯人が詰問を受けている様子をうかがう。兄いわく、八学署を攻撃したテロ事件の犯人でもあるという。
     タケルは煮えたぎるような怒りを込めて、犯人に視線を送る。
     ただ、そいつは意外にも、タケルより年下の少女だった。それに彼女の発言からは、それほど大それた目的意識は読み取れない。かといって愉快犯のようでもない。危険人物ではあるが危険な思想はなさそうだった。
     彼女ひとりの計画ではないのだろう。それくらいは素人のタケルにもわかった。彼女にどんな感情をぶつけても意味はないのだ、と自分を納得させた。黒幕がいる。胸の奥を焼き焦がすような怒りの熱は、そいつにぶつけるために取っておく。
     横に立つ兄が、タケルの肩に手をのせて言う。
    「親父の無念は必ず晴らすぞ」
    「うん」と、タケルは頷く。
    「人手が足りない。力を貸してくれるか」
    「もちろん」
     取調室を見せてもらった時点で、こういう…












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     息づかいに気づいて振り返ったときにはもう、そいつは目の前にいた。
     夜の細道に似つかわしくない巨体の怪物だった。肉体は人型だが顔は鳥。背中からは翼が生えている。そして全身が禍々しい黒色。神醒術により顕現された存在だと、ひと目でわかった。
     レイジは反射的にゲートを起動し、神格・スサノヲを、自身の前に呼び出した。ヤマタノオロチ退治でも有名な、位の高い荒武者の神だ。特にスサノヲは、レイジが顕現したばかりのタイミングでは平時よりも堅固な情報安定度を持つ。レイジが『絆の世代』と呼ばれる人種であり、スサノヲとの情報的結合度が強い体質を持つためだ。さらにレイジは、スサノヲに赤色のオーラを纏わせた。これは高位の神格が稀に持つ「神威」と呼ばれる能力で、自身を霊験によって武装する。
     ここまで情報濃度を高めたスサノヲを倒された経験は、レイジにはない。
     しかし鳥の化物は億すことなくスサノヲと対峙し、その目を見据えたまま動かない――神格に動揺が見られないということは、術士にも余裕がある証拠だ――そこでレイジは化物の巨体に隠れて背後に立つ、術士らしき人物に気づいた。50代くらいの、年を食った男だった。
     男の視線の先を追って、彼の目がレイジの背後に向けられていると気づいた。振り返る。ついさっきヒカルを尾行していたのと同じ、黒獅子の神格がいる。
     レイジは瞬時に、男の素性を理解した。
     ――このおっさんがストーカーの犯人か。
     いや、そんなことよりも。
     ――俺も、つけられていたのか。
     ぜんぜん気づかなかった。いちいち背後に気を配る性質じゃないからだ。もしそんな繊細な注意力を持っていたら、そもそも武装グループにだって掴まらない。
     チャリ女の話では、神醒術士が標的とのことだった。なら、レイジがその中に入っていても…











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     天遊琳は、古くは武家の血筋として知られた姓だ。現代では、その苗字を持つ者の多くが警察職員として働いている。
     タケルの父と兄も同じく八幡学園都市署――通称・八学署に勤めており、日夜、街の治安を守るために奮闘している。
     幼い頃のタケルは兄の真似事をして育った。その兄は父の背中から多くを学んだ。兄弟にとって父は、それだけお手本となる存在だった。
     父は八学署の中でもっとも危険な部署、神醒術犯罪対策部に所属している。神醒術士を相手どるには神醒術が必要と一般的には考えられている。だが父に神醒術の適性はない。この街を守るために、あえて危険な道を選んだ父は、生傷が絶えない生活を送っている。ただそれもすべて自分の役目だからと言って笑う。そんな父をタケルは心から誇る。
     学園都市を守るのは天遊琳一族の役目だ、とタケルは思う。今はまだ学生なので父の手伝いはほとんどできないが、ゆくゆくは自分も父や兄と同じく治安維持のためにこの身を捧げると誓っている。
     そんなタケルのもとに職員室から呼び出しがあったのは、タケルが学園の中等部で授業を受けている最中だった。職員室で手渡された電話を耳に当てると、兄の声が聞こえた。兄は八幡学園都市が水面下で進めるテロ事件の捜査において、父の右腕として働いている。その父が捜査中に負傷し、意識を失った、という連絡だった。




     日本に飛べ、と命じられたのは、フライトのたった3日前だった。あまりに急な任務だった。八幡学園都市という街でテロじみた面倒な事件が起こっているとかで、I2COからの応援役に選ばれたのだ。  選ばれたというと聞こえはいいけど、別に腕を買われたわけじゃないだろうとローラは勘づいていた。
     I2COは八幡学園都市と友好的だけれど、それは仲良くしておいた方が利益がある…











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     ストーカーの正体を突き止めたものの、遠隔操作の神格だとわかった。その神格も消えてしまった。これでは犯人を突き止めることはできない。
     気づけば、日が暮れてからずいぶんと経っている。
     ユイが、ふう、と息を吐いた。
    「とりあえず、ヒカルちゃんにはおうちに帰ってもらおうかしら」
     ヒカルがまずユイの方へ、次にレイジへと視線を移した。
     レイジは首肯する。
    「だな。一応の解決はしたわけだし。結局犯人を捕まえられずじまいなのは悪いが、ずっとヒカルに貼りついているわけにもいかない。またちょっとでも気になることがあったら連絡してくれ。ユイに」
    「なんで私限定なのよ」
    「もともと相談を受けたのはお前だろ」
    「どっちにしろあなたにも協力してもらうわよ」
    「……約束してねーよな?」
    「かわいい後輩を見捨てるの? さいってー」
     レイジはヒカルをうかがう。彼女は微笑み、ふたりに頭を下げる。
    「お手数おかけしました、でも……私ならもう大丈夫です。犯人も懲りたかもしれませんし」
     レイジも同意見だった。チャリ女の言っていた感じだと、他にも被害者はいるらしい。それはつまり犯人が、ヒカルだけにこだわっているわけではないということだ。ならば、一度しくじった相手のストーキングに、わざわざ再挑戦する確率は低いんじゃないかと思う。仮にまた現れたとしても、少なくともチャリ女の言っていた限りではストーカー事件によって直接的な被害をこうむった人間はいない。今回レイジたちは戦闘にまで至ったが、それはこちらから仕掛けたことによる例外だろう。攻撃しなければ反撃を受ける心配もないなら、今度こそ警察に連絡だけして、あとはそっちに任せればいい。正体が神格とわかって他に被害者もいるとのことなので、きっと対応してくれる。
     ユイが言った。
    「うーん。それでも…

















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     あらゆる生物はなんらかの事象を認識したときに、そのデータを「SI素子」として大気中に放出する。SI素子は「情報の保管庫(ストレージ)」という別名も持つ、未だ研究中の物体だ。はるか昔から存在したと言われており、個々の事象に関してさまざまな情報を紐づけて無制限に蓄積し続けてきた。たとえば「火」は古い時代に「熱源」「光源」「黒煙を生むもの」「恐怖の対象」などと認識されており、「火」のSI素子はそれらの情報(性質)をデータとして溜めている。
     これら幾多の情報を吸収して自己の脳内で逆順に構成しなおすことで、再び「火」として世界に具現化することができる技術者たちがいる。
     彼らは神醒術士と呼ばれる。
     さらに「火」は、やがて人類によって照明や調理などの用途で使われはじめた。そのときから「火」の保管庫には「便利な道具」という情報が加えられた。ある者にとっては「恐怖の対象」でありながら、ある者にとっては「便利な道具」。
     神醒術士は、これら多彩な情報のなかから、自己にとって都合のいいものだけを拾いあげて再構築・具現化できる。つまり「火」を「道具」として操りながら、敵には「恐怖心」を与えることができる。
     そして具現化する情報の強度は、その情報を認知している人数に比例する。
     ゆえに、神醒術にとってもっとも都合のいい具現化の対象は、以下の条件を満たすものだ。
     1.多くの人々が認知しているもの
     2.人によって定義が異なるもの
     こうして人々は、もっとも出力と応用力に優れた対象――神話を顕現するに至った。

    「ち、面倒くせえな……相手が神醒術を使ってくるんなら、こっちも出し惜しみしてる場合じゃねえ。おいユイ、ひさしぶりにちょっとだけ、力出すぞ」
    「はいはい、私はサポート役ね。了解」
     ユイは不満そうな口調だった…













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     クラブの管理者にそれなりのお金を渡し、急な予約を取りつけ、宿に帰った。
     そこそこ高いホテルだ。サラリーマンが出張で使うと経理にいい顔をされないくらいの。エレベーターは外からだと回数表示が見えないようになっている。
     14階にとっている部屋につく。扉を開けて入り、すぐに気づいた。
     いるはずのヴォルフの姿がない。
     彼がコーラを買いに行ったのはレオナがホテルを出る前なのだから、もうとっくに戻ってきていないとおかしいのだけれど。
     部屋の奥に歩を進め、風呂場、居間兼ベッドルームを見渡してベランダに出る。やはりいない。
     スマートフォンを取り出し、あらかじめ登録しておいた彼の番号にかけてみる。
     レオナは上司から「任務の実行中はパートナーからの電話は極力とるように」と言われた。ヴォルフもそのはずだ。しかし、1コール、2コール、3コール……8コールめまで待っても出ない。仕方なく通話終了アイコンをタップする。
     レオナの脳裏に、嫌な予感がよぎった。こういうシチュエーションは、神醒術にかかわる仕事をしていると少なくはない。パートナーがふっと消えたきり戻ってこないという場合もある。
     まさかヴォルフの身に、なにかあったのだろうか?
     ここは八幡学園都市だ。世界中から集うのは善人だけじゃない。ちょっとしたきっかけから事件に巻き込まれてもおかしくない。現にレオナだって、こうして事件を起こしている側だ。可能性は他の街より高い。
     ――もしなにかあれば私の落ち度だわ。
     レオナは下唇を噛む。
     非効率的だから下見をひとりですませたほうがいい、という考えは間違っていなかったと思う。ただ、あの自由人と別行動をとるということは、おばかな犬の首から鎖を外すことと同義だ。その認識を怠っていた。まさか、いい年をした男が自分の身…














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    「ストーカーは、神醒術士ってことですか?」
     とヒカルが尋ねる。レイジは首肯する。
    「その可能性が一番高い。警察には行ったか?」
    「いえ、まだ。犯人の姿を確認したわけじゃないので、どうやって説明したら取り合ってもらえるかわからなくて」
     なるほど、とレイジは頷く。警察には一応、神醒術犯罪の対策をおこなう課だか部だかが存在していたはずだが、被害がこれくらい曖昧な事件にまで人員を割いてくれるかはわからない。
     レイジが、今日会った警部を思い出していると、ちょうど似たことを考えていたのかユイが口を開いた。
    「これって、あなたが攫われた誘拐事件となにか関係あるかしら?」
    「どうだろうな。可能性はなくはないけど」
     えっ、とヒカルが顎を引く。学園の高校生が誘拐された、という話は些細なニュースになった。その高校生がレイジであることも、学園内ではそこそこ有名だ。ヒカルも知っている。
    「私、誘拐されるんですか?」
    「あくまで可能性の話な。言い切れはしない」
    「もしそうなったら、私はレイジ先輩みたいに無事でいられる自信がありません……」
     ヒカルも神醒術士ではあるが、今のところ、レイジのようにひとりで神格を顕現できはしない。不安は当然だ。
     うつむくヒカルの背中を、ユイがさする。
    「あのねヒカルちゃん、それが普通なのよ。こいつが異常なだけ。大丈夫、犯人は必ず私たちが捕まえるから」
     私たち? レイジは辟易する。まだ情報がほとんどないのに、俺を巻き込んで身勝手な約束をするなよと言いたかった。けど文句を言っても、きっとユイは譲らない。そんなことはこれまでの付き合いからわかりきっている。ユイを説得するよりも、ストーカーをぱっぱと捕まえてしまうほうが遥かにカロリーがかからないことをレイジは知っていた。
     ため息をひとつ。仕方がな…

















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    「今日ひま? あなたにとって、ためになる話があるんだけど」
     校門を越えたところで、恵比寿ユイに声をかけられた。
     ユイはレイジのクラスの学級委員長で、模範生だ。見た目からすでに凛とした風格と清潔感を醸し出しており、一般的には美少女として好印象を持たれる。教師たちは彼女を「問題児であるレイジへのお目付け役」と考えているらしく、授業で頻繁にペアを組ましてくる。だから自ずと、レイジはユイの性格を、ユイはレイジの性格を他のどの同級生よりもよく知っている。
     レイジから見たユイは、ひとことでいえば「おせっかい焼き」だ。同義語は「面倒くさいやつ」。
     うげえ、とレイジがあからさまに顔を歪める。
     と、ユイはなぜか嬉しそうに微笑んだ。
     ……ほんとドSな性格だなこいつ。
     レイジはいっそうテンションを下げた。目を逸らして、ユイの脇を通り過ぎようとしたところで、腕を掴まれた。
    「ちょっと、無視はないでしょ。私がどれだけここで待ってたと思ってるの?」
     レイジはその手をふりはらって、舌打ちする。
    「知るかよ。俺は忙しいんだよ」
    「嘘。あなたが忙しかったことなんて一度もないでしょ、サボり魔なんだから」
    「宿題はちゃんと出してるだろ」
    「適当な答えばっかで埋めたやつをね。でも他の提出物は? 進路希望票、出してないのレイジだけだって先生が言ってたわよ」
    「……ああ、あれな。その回収のために、わざわざ待ってたのかよ」
     別に、出さなくても怒られなそうだったので忘れていた。レイジは必要最低限のことしかしない、エコな人間なのだ。
    「本当はプライベートなことだから自分で出した方がいいの。けど、私から急かした方が効果があるからって、先生に任されたのよ」
     まったく、最近の教師は悪知恵ばかり身につけやがって。ユイは教師より遥かにしつこいの…


















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     マルコ・ベイカーはI2CO所属でありながら八幡学園都市に暮らし、おもに高等部や大等部で、神醒術を受け持つ教師として勤めている。
     この仕事はI2COからの指示で、八幡学園都市も認知している。
     日本と米国は親交が深い。神醒術組織として世界最高の技術力を持つ八幡学園都市と、世界最大の規模を持つI2COは、表面上、友好的な関係だ。
     マルコの役目は、そのふたつの組織を繋いで、互いに利益を提供させ合うことにある。I2COはマルコという監視の目を通して八幡学園都市のさまざまな内部事情を把握し、八幡学園都市はマルコが教えるI2CO流の神醒術を市民たちに吸収させる。言い換えるなら、ふたつの組織間に亀裂が生じた場合、その裂け目に足をとられて奈落に落ちかねないのがマルコの立場だ。
     しかし、マルコは組織を恨んでいない。むしろ、よい環境を用意してもらったと感謝すらしている。
     すべては研究のためだ。
     マルコが神醒術に求めているのは、社会常識の大変革だ。まだ世間では神醒術を「電気に代わるエネルギーでどうのこうの」「戦争の道具としてうんぬんかんぬん」などと、既存のものさしで測っている節がある。しかし神醒術にはさらに尊い価値――万有引力や地動説のように人類にとってパラダイムシフトとなり得る可能性が秘められている、とマルコは考える。発電所も兵器も、どうだっていい。海の果てが奈落への滝でないことをマルコは証明したい。
     そのためには、組織間抗争ごとき多少のアクシデントは起きたほうが望ましいくらいだ。術式の資料は多いほど研究に役立つ。そしてありがたいことに、そのようなアクシデントは、マルコが予想もしない、直接的な形で発生した。

     学園都市の政策企画局長が、命にかかわる重傷を負った。
     政策企画局長とはおおざっぱに言…










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     面倒くさい。
     旭レイジは常々そう思っている。だいたいぜんぶに対して。
     勉強は嫌いだ。運動もダルい。だからよくサボる。けど、サボりすぎると教師に目をつけられるからそれも面倒くさい。不良という、太古に存在したらしい絶滅種みたいにエネルギッシュには生きられない。
     たとえば宿題。いちおう提出はする。ろくに問題文さえ見ずに回答を書いたものを。当然、中身は間違いだらけだが「ぼくなりに頑張ったんだけど間違いました、馬鹿でごめんなさい」という雰囲気だけは出しておくよう心がける。そうすれば教師は、怒りよりも呆れや哀れみの目で見てくれる場合が多いので、未提出で怒られるより楽だ(クラスメイトの中には、友人に写させてもらう、というやつもいるが、丁寧に転写するよりも適当に書いた方が時間もカロリーもかからないと思う)。
     レイジはいつだって、ローコストな日常を愛している。省エネ万歳。

     今日もいつもどおり、無難に授業をこなして一日を終える。終業の礼をするやいなやざわつく教室。その中で担任の久保田が声をはり上げた。レイジに、ついてこい、との呼び出しだった。
     突然のことに、予想していなかったレイジは一瞬目を丸くした。が、すぐ素直に頷いた。驚くのも質問するのも面倒くさい。
     それに呼び出しの理由はなんとなく想像がついた。先日の誘拐事件に関することだろう。レイジは机の上にあった荷物を鞄につめこむと、久保田につづいて教室を出た。

     八幡学園都市は、関西の丘陵地帯にある「神醒術の聖地」だ。
     世界中の神醒術士が憧れる場所で、数多くの学生と研究者が暮らしていて、その土地は3つの市にまたがるほど広い。
     エリアは研究所区画と学園区画に分かれているが、学園区画の校舎も研究所としての側面を持つ。
     研究内容や学園の授業内容など内部…











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     神よ、我々の過ちを赦したもう。
     今日、我々は、ふたつのミスを犯した。
     ひとつは、彼を捕獲対象に選んでしまったこと——彼は最初、輸送中の車内で面倒くさそうに無抵抗をつらぬいていた。
     しかし、我々が他にも神醒術士を狙っていることを喋ると、表情を一変させた。

    「この街には手を出すな。今の生活は、わりと気に入ってるんだ」


     そう言って彼が顕現させたのは、荒武者の姿をした神だった。私は思わず、目を剥く。
    「まさか、このような幼い少年が、たったひとりで……日本神話の最高位を!?」
     このときに大人しく彼を帰していればよかったのだろう。
     だが我々は力をもって彼を抑えつけようとした——これが、ふたつ目のミスだ。

     神が剣を振るう。その一薙ぎで、私の護衛兵が斬り捨てられる。瞬く間に惨状が広がる。破砕。粉砕。撃砕。
     無表情に破壊を続ける神と、その使役者である少年に、我々の抵抗は意味をなさない。
     残った護衛兵たちは、無理やりに互いを鼓舞する。
    「耐えろ、反撃の好機はあるはずだ! いかに強大な神と言えど、いずれ力尽きて——」
     しかし私は知っていた。彼が操る神の性質を。一度でもこちらが弱みを見せれば、かの存在を止める術はない。

     我々は神の怒りに触れたのだ。これは、その報い。
     もはや私には、両手を組み、祈ることしかできない。
     ああ、神よ。我々の過ちを赦したもう。どうか。どうか。




     大人しいお嬢さま、というのが、彼女を見ての第一印象だった。
     けれど私が世話役として雇われてから1か月、その認識は改めざるを得ない。
     彼女はお嬢さまではあるが、決して大人しくはない。感情豊かで、独善的だ。

     純白のセダンの後部座席で、彼女——アリス・フィフティベルは言う。
    「なかなか撒けませんわね。うしろの黒塗り」
    「……ああ、お気づきでした…



























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    • Ebisu Yui: Heaven-Ascending Response #11
    • Asahi Reiji: Daytime Latern's Sabotage #9
    • Ebisu Yui: Heaven-Ascending Response #12
    • Ebisu Yui: Heaven-Ascending Response #13
    • Hisamitsu Rajiv: Silent Harmony #22
    • Kirishima Keigo: Young Oni's Development #16
    • Published 04/03/2016



    • Hisamitsu Rajiv: Silent Revolver #23
    • Chelsea Bagel: Spice Girl Operation epilogue
    • Hisamitsu Rajiv: Silent Revolver epilogue
    • Kirishima Keigo: Young Oni's Development epilogue
    • Ebisu Yui: Heaven-Ascending Response epilogue
    • Published 04/10/2016

    • Fujiya Belta: Shadow Who Does Not Smile #15
    • Fujiya Belta: Shadow Who Does Not Smile epilogue
    • Ullica Tirol: Rune Luffing #10
    • Ullica Tirol: Rune Luffing epilogue
    • Published 04/17/2016

    • after_ Paulo Aycock
    • after_ Morinaga Dolis
    • after_ Ebisu …






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    4gamer link: http://www.4gamer.net/games/291/G029188/20150702120/

    • [http://dreadnought-tcg.com/story/red/reiji_story00
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    These are a collection of ongoing stories that revolve around the main characters of Dreadnought. They are updated every Monday on 4gamer.net (and usually gets updated eventually on the official website a few days later). I can't frikkin' read Japanese so I don't understand what is currently going on ;_; So I might at least share the titles and links here.

    All of them were written by 河端ジュン一 (Kawabata Jun'ichi).

    Edit: There might be no more updates posted on 4gamer, so I'm gonna put the link directly to the official website.


    • Chapter 1: Those Who Do Not Fear Even Gods
    • Chapter 2: Twilight Howling
    • Chapter 3: Netherworld
    • Chapter 4: Paradise Lost
    • Chapter 5: Greenwind Saga
    • Chapter 6: Code Vanargand
    • Chapter 7: Game of Desire
    • Chapter 8: Judgement Day

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